« 相続税増税(4)  居住用宅地と事業用宅地の「完全併用」? | トップページ | 相続税増税(6)  今回の改正は「薄く広く」ではあるが・・・ »

相続税増税(5)  小規模宅地特例の問題点

平成22年度税制改正により、1つの宅地等に共同相続があった場合は取得した者ごとに小規模宅地特例の適否を判定されることとなった。特例適用対象者が1%でも取得すれば残り99%も特例対象となってしまうことが「課税回避的行動」を助長するというのが改正の主な動機だったようである。この際「ゼロベースで見直して分かりやすい制度とする」という説明があったように思うが、いざ運用を始めて様々なケースに当てはめてみると税務関係の人間でさえ戸惑うような難解な制度だったというのは皮肉としか言いようがない。

今回の「特定居住用宅地の特例適用面積を330㎡に拡充」というのも同類の「改正」ではないかと思っている。推進している人は「善意からの行動」なのだろうが、実際に運用するとなると本当に「改正」なのか疑わしい。

A.単純なケース

S330

このグラフは横軸を被相続人居宅の面積として小規模宅地特例適用後の評価額の変化パターンを表している。赤の破線は平成22年以前のパターンを示し、現行税制でも全体が特例対象となるケース(=居宅を配偶者や同居親族が全て相続するケース)でも同様となる。
特例適用面積を330㎡に拡充しようとしている人たちはこれをイメージしているのだろう。これなら240㎡超のケースについて評価が軽減されるだけで、240㎡未満の人には関係ない。元々240㎡というのが都内を想定した面積で地方の住宅事情を考慮すれば若干手狭だったとも言えるので、基礎控除引き下げを機に見直して欲しいとの要望がでても不思議ではない。

B.共同相続(現行税制)

S240

配偶者と子(特例対象外)が法定相続割合で共同相続するケースである。この場合、特例対象となるのは配偶者が相続した部分のみとなる。

特例対象面積=土地面積×配偶者相続割合(1/2)

これに基づき作成したのが上のグラフである。上限面積は240㎡のままでも計算方法の変更で実質的に評価額が増大する。平成22年以前(赤の破線)と比較すると240㎡で差が最大となり、480㎡で重なっている。これは居宅敷地面積が480㎡未満の人は実質増税、その中でも特に240㎡に近い人への増税幅(?)が大きくなるが、480㎡以上の人は影響を受けないということを意味している。普通に考えれば一部の人にのみしわ寄せがきているように思えるが、これが「ゼロベースで見直した分かりやすい制度」であるらしい。まあゼロベースで見直したのだから過去と比較する気など無いのかもしれないが・・・

C.共同相続(適用面積330㎡に拡充)

Sk330

同条件で共同相続するとして適用面積上限を330㎡とすると上のグラフとなる。このグラフの意味を端的に言えば「居宅敷地が480㎡未満の人は実質増税、480㎡以上の人は実質減税」ということである。現行税制においては「ゼロベースで見直した」と強弁することも可能かもしれないが、このように適用面積拡充を含めると「公平な制度」とはとても言えないだろう。

以上は法定相続割合による共同相続を前提とした議論であり、配偶者が単独相続すればこのような不公平は発生しないとの指摘があるかもしれない。しかし、相続財産の主たるものが被相続人の居宅だけといったケースの方が裁量的に遺産分割できない可能性が高いと思われる。そもそも租税回避のため恣意的に遺産分割を行うことを防ぐのが趣旨だったはずで、「法定相続割合」で遺産分割を行おうとする人がペナルティを課され、新制度に合わせて裁量的に遺産分割した人だけが恩恵を得るというのは納得しがたい。

平成22年度税制改正は小規模宅地特例を「ゼロベースで見直した分かりやすい制度」にすることを目指したのかもしれないが、私には真逆の方向に進んでいるような気がしてならない。今回の税制改正大綱にいたっては条文さえ理解困難なものとなってしまった。制度を作っている人すら制度を良く知らないのではと疑いたくなるような状態である。本来は平成22年改正後に制度についてもっとオープンな議論をすべきだったのである。ところが実際は、税務当局は本格的な相続税増税を前にして「寝た子を起こすな」的思惑から現行税制の問題点について議論を避けてきたのではないだろうか。願わくば、今後はよりオープンな議論を行い、本当の意味で「ゼロベースで見直した分かりやすいシンプルな制度」としてもらいたいものである。

|

« 相続税増税(4)  居住用宅地と事業用宅地の「完全併用」? | トップページ | 相続税増税(6)  今回の改正は「薄く広く」ではあるが・・・ »

5.相続税増税」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 相続税増税(4)  居住用宅地と事業用宅地の「完全併用」? | トップページ | 相続税増税(6)  今回の改正は「薄く広く」ではあるが・・・ »