3.0.不動産コンサルティング

2009年10月26日 (月)

個人と企業とでは「不動産コンサルティング」は異なるか?

はじめに

「不動産を扱うという点では同じであるから相手が個人だろうが法人だろうが一緒だ」という人もいるが、実際に企業を相手とすると、個人に対して有効であったことが法人に対しては通用しないケースが結構ある。私も法人相手の仲介業務を始めた頃、税金がらみの話をしていて相手企業と話が噛み合わなくて困惑した経験がある。そこで今回は、土地を売却する際の個人と法人の税金に関する考え方の違いを題材として、個人と企業に対する不動産コンサルティングの違いについて述べたみたい。

法人はドンブリ勘定

個人の売買仲介では譲渡所得税についての知識が不可欠であり、セールスやコンサルの重要な武器となる。反面、譲渡所得税の勉強ばかりしていると、知らず知らずのうちに「税金を出来るだけ減らして手取額を増やすことがコンサルティングだ」という考え方が染み付きやすい。

一方、法人には譲渡所得税などという税項目自体がない。一応、それに対応した「土地重課制度」というのがあるが、バブル崩壊以降大幅に簡素化された上、その簡素化されたものさえ現在停止中とあっては殆ど無いに等しい状態だ。コンサルで税を前面に出したくても、肝心の税がないのである。

つまり、個人コンサルの有力な切り口である「譲渡所得税に関する話」は法人に関しては通用しないわけだ。それでも未練がましく(?)法人税額控除後の予想手取り額を提示する人もいるが、悲しいかな企業が興味を持ってくれる可能性は殆ど無い。本気でコンサルィングをしたいのであれば、発想の転換をして別のアプローチの方法を見つけねばならない。

税務署的発想を捨てよう

税金の本は税務署出身者や税理士、言い換えれば「税金を取る側の人」が書いたものである。経済活動と税制は表裏一体であるとすれば、彼らとは反対の見方も存在するはずである。細かい税法のことは取り敢えず横に置いておき、もっと税金を払う側の立場で考え直してみる必要がある。

まず個人のケースから見てみよう。個人が土地を譲渡する場合、特殊なケースを除いて他の所得との損益通算は認められない。いくら利益が出ようが、譲渡所得税を通じて手取額が変化するだけである。つまり譲渡所得税とは、売主にとっては「現金化のためのコスト」なのである。個人のクライアントが税金の話に耳を傾けるのは、それが最大かつ(対応次第で)大幅に増減するコストだからなのである。

これに対し、法人はほぼ完全な「ドンブリ勘定」であり、また個人のように「現金化のためのコスト」となる譲渡税は存在しない。「含み益」が「実現益」となって「ドンブリ勘定」に放り込まれるだけである。それなら答えは簡単、企業が関心を持つとすれば、それは税金の問題などではなく「実現した含み益をどう経営に役立てるか」という問題である。当然、コンサルティングの核心もこの問題とならざるを得ない。

企業にとって利益は悪ではない

個人仲介の世界に長くいると、譲渡益は譲渡所得税という「コスト」を生むことから、なんとなく「利益は悪」であるとの感覚を持ってしまいがちだ。しかし企業にとっては本質的に「利益は善」である。もし悪となるとすれば、これは実現益を活用できなかった経営の問題である。

ある程度の利益が確保できないと思い切った経営改善を行うことは不可能だ。不良在庫や遊休資産の処理、拠点のスクラップ&ビルド等のような事業のリストラは勿論、新規事業を立ち上げる際にも、どこかで利益を確保しておく必要がある。事実、10年ほど前に新会計基準が導入された際には大企業も大規模な益出しを行う必要が生じた。その際「不動産の証券化」がコンサルされ、爆発的な不動産証券化ブームの呼び水となったことは記憶に新しい。

「実現益をどう経営に役立てるか」と考えている企業へ「利益が上がると税負担が増えて損だ」というスタンスで対応しても話が噛み合うわけがないのは自明であろう。企業が不動産を処分する意図や目的を正確に理解した上で、それに必要なスキーム、スケジューリング、リスク管理等についてプロとしてのアドバイスを行うことが企業が求めるコンサルティングなのである。

企業のニーズを把握できるかが鍵

ここまで譲渡所得税を題材として法人と個人の考え方の違いについて述べてみたが、「こんなことは不動産コンサルティングの対象ではない」、或いは「不動産会社にそんなものは求められていない」と言う人もいるかもしれない。しかし「相手のニーズを的確に把握する」というのは当たり前のことではないだろうか。個人に対しては「売却の動機」や「今後の方向性」を執拗に(?)ヒアリングするのに、企業に対しては相手のニーズすら把握できなくても良いというのは筋が通るまい。企業に対して偉そうに経営指南をする必要は全くないが、仮にも「コンサルティング」というからには、少なくとも企業と対等に会話できるだけの知識と見識が必要であろう。

2009年4月 2日 (木)

借地・底地の「片割れ交換」の税務

借地人と地主の間で借地権と底地権の交換を行い、その一方が交換により完全所有権となった土地をすぐに売却してしまうことを俗に「片割れ交換」と呼ぶ。借地と底地の権利調整においてはポピュラーな手法ではある。しかし、具体的な税務の取扱い方法を説明できるかとなると、上手くできる人は意外に少ない。最後は税理士マターとはなろうが、不動産コンサルタィングと言うからには、少なくとも概略については顧客へ分かりやすく説明できる能力は必要であろう。

これを理解する上で最も重要かつ基本的なことは、「民法上の交換」と「税法上の交換」は全く別物である、ということだ。契約書の表題が「交換契約書」であろうが、登記原因が「交換」であろうが、交換特例の用件が満たされなければ税務上は単なる「譲渡(=売買)」として扱われる。仮に全ての用件を満たしていたとしても、特例を適用する旨を申告しなければ同じである。つまり税法上は全ての土地取引は「譲渡」であり、その中で特例の適用の申告があり、かつそれを税務署が認めた場合のみ「交換」となるのである。

そこで「固定資産の交換の特例」を具体的に見てみよう。(少し端折るが)交換の条件は次の4つである。

1. 交換譲渡資産と交換取得資産のいずれもが同種の固定資産であること
2. どちらも所有期間が1年超、かつ交換用に取得された資産でないこと
3. 交換差金が、そのいずれか多い方の価額の20%以内であること
4. 取得した資産を譲渡した資産と同一の用途に供すること

この場合、借地権と底地権は同種の資産とされる。通常の借地と底地であれば最初の2つの条件は満たすだろう。3番目の条件についても交換比率で調整されるのが普通で、むしろ交換差金が発生するケースの方が少ないと思われる。よって4番目の条件、すなわち売却しなければ特例の条件は満たすこととなる。

「片割れ交換」の場合、すぐ売却してしま方は4番目の条件を満たさない。その時に相手側(売らない方)が交換として認められるか疑問に思うのは当然である。しかし前述の税法の基本を考えれば答えは明らかとなる。売らない方は「交換」として申告し、売る方はそれをしないだけの話だ。基本は全て「譲渡」なのだから、「特例」の申告をせずに譲渡税を払うことは何ら問題はなという理屈である。

以上から「片割れ交換」によって土地を売る人の税務処理は次のようになる。(但し、借地人のケース)

1. 最初の「交換」時点
  借地権の一部を地主へ譲渡   → 長期譲渡A
  底地権の一部を取得

2. 「交換」後の土地売却
  残りの借地権を第3者に売却 → 長期譲渡B
  上で取得した底地権を売却  → 短期譲渡(但し、利益ゼロ)

長期譲渡Aの金額と短期譲渡の金額を実質的に同額(経費分は上乗せ)とすれば、短期譲渡の申告は必要となるが課税額はゼロである。その結果、申告上は長期譲渡Aと長期譲渡Bの2回に分かれても、税額は「交換」後の土地を単純に長期譲渡したのとほぼ同じこととなるのである。

ここまで説明できれば、後は税理士マターであろう。一つ注意することがあるとすれば、片割れ交換の場合は最初の交換契約書に金額を入れる必要が生じることである。譲渡税の申告には譲渡価額が必要となるからである。この金額を幾らに決めるかについては契約書作成までに税理士と十分協議しおく必要があろう。

余談ではあるが、交換契約書に金額を記載すると印紙税が高くなるため、売却しない方の当事者は嫌がることが多い。あまり早く相手側に言うと売却するのがミエミエとなるので考えものだが、うまいタイミングで切り出す必要はあるだろう。たいした金額ではないのだが、最後の最後になって思わぬトラブルに発展しては元も子もない。相手がゴネそうな場合は、売る方の側が印紙代を全部負担してやるくらいの腹の括り方が必要だろう。

2008年10月 6日 (月)

借地・底地の権利調整(その3)

交渉のタイミング

借地と底地の共同売却や等価交換については、地主側は基本的には「相手の出方待ち」となりますので、通常は借地人側の提案でスタートすることになります。ここで注意すべきは、地主と借地人は基本的に「睨み合い」の関係にあるため、地主側へ不用意に接触をすると足元を見られてしまうことです。

私がまだ駆出しの頃ですが、買換え物件を先に契約した後で借地権を売却しようとした顧客に対して、地主からイジメのような対応をされて大変なトラブルになったケースがありました。これは依頼者から「地主との関係は良好なので、引越し先が決まってから話をしたい」との強い申し出があり、私もそれを認めてしまったことで生じた問題でした。実際に地主とは特にトラブル等は無かったのですが、どうも性質の悪い人がアドバイザーについていたようです。今ならもっと上手に処理できたと思うと悔やまれます。

地主側にとって底地を良い条件で換金できるチャンスは滅多にありません。逆に言えば借地人が住み続けける限りノーチャンスです。上のケースについても、「駄目なら白紙に戻す」というスタンスで地主と交渉できていれば全く異なる結果になっていたと思います。逆説的になりますが、借地人側から共同売却を持ちかける際には「嫌なら半永久的に売却しないぞ」というスタンスをとれることが交渉上の最強の切札となるわけです。

一般的に「先に切り出した方が立場が弱くなる」と言われます。しかし、これは「互いに牽制しあった結果、何か弱味がある方が切り出すことが多い」ためともいえます。立場が弱くなることを恐れるあまり、肝心の交渉のタイミングを逃してしまってはなんにもなりません。むしろ早目に十分に時間を掛けて「対等の立場」で交渉できる時期に切り出すことが肝要です。

借地・底地の権利調整(その2)

借地権価格+底地権価格=?

借地権と底地権を合体させれば完全所有権になります。借地と底地の権利調整とは土地の価値を借地権者と底地権者の間で分配することに他なりません。しかし、実際のコンサルティングに際して、ここから話をスタートさせるのは誤りです。

例として、借地権割合が60%の地域で借地権、底地権を単独で売却するケースを考えてみます。

借地権を単独で売却する場合、地価を100とすれば60で売却できるそうに思いますが、実際には借地権特有の煩わしさ(地主との関係、担保能力が低い etc.・・・)により2割から3割減価された42~48が相場となります。ここから更に名義書換料(買主の建替承諾料を含む)が引かれますので、実際に代金として残るのは40前後と考えられます。但し、これさえも地主との関係が良好であることが前提であり、地主からクレーム等が付いた場合には更に取引条件が悪化することとなります。

一方、底地権を単独で売却することはもっと困難です。借地人に買ってもらうケースを除けば、所謂「底地買取業者」に売却するしかありません。その場合の買取価格は良くて更地価格の1割程度にしかならず、場合によっては購入してもらうことすらできません。

つまり互いに単独で処分しようとすれば、借地権と底地権の価値は合わせてもせいぜい50前後にしかならないことになります。この差額は借地人と地主が睨み合っていることによるマイナス、言い換えれば権利調整に成功した場合の「開発利益」となるわけです。この論理で言えば、借地人と地主が協力するのは至極自然なことであり、交渉の焦点は「開発利益を如何に山分けするか」ということになります。

ところが、スタートで「土地の価値を地主と借地人でどう分けるか」とすると一転して話は複雑になります。一方の損は他方の利益となるため、協力することのメリットを忘れて分配比率の決定で紛糾することになりがちです。過去の地代水準や更新料の支払い状況を勘案して決めようということになりますが、これは過去の様々な経緯が絡んできますので一層拗れることにもなりかねません。

コンサルティングを依頼される場合は依頼者に上の理屈を理解してもらうのが肝要です。依頼してくるからには何かしら現状を改善したいというニーズがあるはずです。それでも過去に拘って「相手には一銭も儲けさせたくない」というような考えの人からの依頼は謝絶したほうが賢明と考えます。

借地・底地の権利調整(その1)

借地権、底地権とは?

実は借地権という「権利」は外国にはありません。そのためか法律的にも不完全な部分が多く、一旦トラブルになると泥沼化する場合もありますので取扱いには注意を要します。

当然、借地人か地主のどちらか一方からの依頼で着手することになりますが、依頼人自体が借地権(又は底地権)についてよく理解しておらず、それが交渉のネックになるケースが多く見られます。
そこで、交渉を始める前にまず依頼人に正しく理解してもらう必要があります。私の場合、少し乱暴かもしれませんが、突き詰めると次のようなものだと説明しています。

借地権 ~ 地代等について応分の負担をすればその土地に居座れる権利
底地権 ~ 借地人が建替え、売却をしようとした際に異議を唱える権利

本来はただの債権に過ぎなかった借地権が実質「財産権」となったのはこの「居座れる権利」の結果です。地主により強制的に立ち退かされることはない上、建替え等も(仮に地主が反対して係争になったとしても)相応の対価を払えば認められます。戦後の住宅不足時の「建物保護」という政策が思わぬ結果を招いたわけです。
一方、地主のほうはと言うと、地主の一方的な都合では立ち退きも建替えの阻止もできないという意味で「異議を唱える権利」しかありません。その代わり「異議を唱えない対価」としての「承諾料」は得ることが出来ます。地主が一方的に不利なようですが、「異議を唱える」効果は意外と大きく、地主と係争を抱えた状態では借地権を売却しようてしても高値で売ることは不可能となり、建替のための銀行借入も困難になります。

この状態は、言わば「互いに弱みを握り合っている」状態です。借地人は居座る限りは強い立場ですが、何かをしようとすれば一転して弱い立場となります。一方、地主は主体的には殆ど動けませんが、何かあった場合には少なくとも借地人の邪魔はできるというわけです。
これはある意味で両者に大変ストレスの溜まる関係です。両者の関係が一見良好に見えても、何かの切欠で一気に過去の不満が噴出する可能性を常に孕んでいるといえます。よって借地・底地の権利調整をコンサルティングする場合は、依頼者にもこの関係を十分に説明した上で細心の注意をもって取り組む必要があります。