0.不動産業界

2009年4月15日 (水)

底地の買取業者について(その2)

借地人との力関係

個人地主から底地買取業者へ所有者が変わったとしても、借地権者と底地権者の法律上の関係が変化するわけではない。「借地・底地の権利調整」で論じたように、両者にはそれぞれ強味と弱味を持っている。底地買取業者は地上げ業者に比べれば「紳士的」だと述べたが、これは程度の差であって、借地人に弱味があれば突いてくるのは当然である。要は、それが正当なものなのか、という問題である。

「地主から全ての債権債務を承継する」とは?

少数ではあるが借地人の中には地主と喧嘩することが趣味のような人もいる。地代の値上げには全く応じず、更新料など当然のように払わない。このような相手は地主にとっては悩みの種であり、底地をただ同然で売り払う気にさせた元凶となっているケースが多い。ところが、底地買取業者にとっては意外に与しやすい場合もある。

現在の日本の法律では、地主が借地人を立ち退かせる「正当事由」というものは実質的に存在しない。賃料水準について借地人と争っても労多くして益は少ないし、更新料などは「慣習」にしか過ぎず正式な権利でさえない。つまり借地人が既存の建物で現況の利用を続ける限り、借地人は地主より圧倒的に有利な立場にいると言える。

ところが、このような「地主と争う」タイプの借地人も、ひとたび家屋の建替えや借地権売却を行おうとすると一転して立場は弱くなる。地主がそれを拒否すれば裁判(又は調停)となるが、この際に過去に相場を無視して「踏み倒した」賃料や更新料が承諾料に反映されるのである。つまり地主と争うことにより得た経済的利益は、借地人にとって一種の「隠れ債務」となっているのである。

業者は地主から全ての債権債務を承継することとなる。故に、この「隠れ債務」も当然引継がれることとなる。仮にその底地がただ同然で売買されたとしても関係ない。このため、ひとたび建替え等が懸案となれば、業者は「地主と争う」タイプの借地人に対しては強い立場をとることができる。一方、過去に地主と何らトラブルが無かった借地人は、過去に地主と合意の上で取り交わした約束事は全て保護される。突然見ず知らずの不動産業者が地主となったからといって、何ら恐れる必要は無いのである。

突然、底地を買われてしまったら・・・

基本的には慌てないことである。名義人が変わっても、旧地主との間で交わされた合意や取決めは反故にされることは無い。「底地買取業のビジネスモデル」の所で述べたように、借地人は業者にとって一番手の「お客様」なのだから堂々としているのが正しい。後日なんらかの提案がある筈で、それが魅力的であれば応じれば良いし、嫌ならそのまま借地していれば良いだけの話である。早くして欲しいとの申し出があろうが、それは業者の都合であって、それに見合った条件面での譲歩等がなければ借地人としては急ぐ必要は無い。

一方、相手が業者だからといって交渉自体を忌避する人がいるが、これは大間違いである。変な人間関係が絡まない分、かえってスムーズに交渉できるケースも多い。また、業者が二束三文で底地を取得したことを知って怒る人もいるが、前述のバルクセールの仕組みから見てやむを得ない面もあり、この際は相手の懐具合など気にせず自分の損得勘定のみを冷静に判断するのが正しい対応といえよう。

ここで問題になるとすれば、何故だか自分の立場が強いと錯覚している「勘違い」業者に当ってしまった場合である。前述の通り、「隠れ債務」のある借地人に対しては業者は存外強い立場にあるが、「大人しい」借地人に対しては逆に弱い立場のはずである。ところが一部の業者は、「トラブルメーカーの借地人でも言うことを聞かせられたのだがら、大人しい借地人など簡単に牛耳れるはずだ」と勘違いしてしまうらしい。ほとんど「妄想」に近いのだが、こういう業者は「すぐ買え、高く買え」と変に確信をもって催促してくるので始末に悪い。

このような場合は、仕方ないので建替え等は我慢することにして、当分は今まで通り地代を払いながら様子を見るしかなかろう。向こうが間違いに気づいて態度を改めるまでは、交渉しても話は噛み合いそうも無いからだ。言うことを聞かないと法外な地代の引上げや莫大な更新料でも請求されるのではないかと心配される向きもあろうが、そんなものは断固として拒否してしまえば良いのである。拒否しても相手には打つ手など無いし(注)、また相手が打つ手など無いことに気づいてこそ、初めて交渉の素地が整ったと言える。無用な喧嘩は避けて相手が音を上げるまで待つ、これが肝要である。

(注)訴訟を起こされたとしても、周辺相場以上の賃料や更新料を課されることはありません。また、底地であることを承知で購入していますので、業者が皮算用した「得べかりし利益」などは損害賠償の対象になりません。

底地の買取業者について(その1)

はじめに

不動産業界には「底地の買取業」というジャンルがある。昔のバブル時代には大層流行した業態で、「××興産」とか「○○○土地」等という実質的に「地上げ屋」同然の大手業者も存在した。バブルが弾けてこれらの業者は消えていき、比較的地道に権利調整を行う業者だけが残った。しかし、数年前までの市況回復期には新たに参入してくる会社もあったようである。

底地の買取というと強面の「地上げ屋」を連想する人が多いかもしれないが、実態はもっと地味な仕事である。借地・底地の権利調整 の所で説明したが、借地権と底地権は本来一つであったものが引き裂かれて(?)出来たことから、互いに「不完全な権利」ある。借地人と地主が協力すれば大きなメリットが生じるが、長年の人間関係のもつれ(?)から当事者間で解決できなくなっているケースも多い。これを第三者的に権利調整することにより、業者と借地権者の双方に利益となる解決策を見出せれば社会的効用は大きい。その意味では、社会的には余り評価されてはいないかもしれないが、高い専門性を必要とする重要な業務ということもできよう。

しかしながら、利益が上がると聞くと訳も分からずに参入してくる業者がいることも事実であり、そのような業者がトラブルを起こしている話を最近よく耳にするようになった。まあ底地の買取業とは一種のトラブル産業であるから仕方がないと言えばそれまでだが、当事者の無知や誤解でトラブルになっているケースが増えているようである。そこでこの業態について簡単に説明してみることにしよう。

地主による"底地のバルクセール"

地主にとって底地はやっかいな資産である。相続税評価は高いが、地代による収益性は低く、かといって物納に利用することも難しい。いつの日か高い金額で資金化できるかもしれないが、それとて借地人の都合次第である。近い将来に相続の発生が予想されるような局面では、感覚的には殆ど「負の資産」といっても過言ではない。この際一気にオフバランスしてしまいたいと地主が考えるのも無理ならぬことである。

そこで考えられたのが、底地権の一括処分である。これは一種の「バルクセール」といえる。土地ごとに借地人との関係、地代の高低、更新到来時期等は異なるが、これらを勘案することなく一括して売却してしまうのである。買取った側は借地人との交渉を通じて底地の現金化を目指すわけだが、これには膨大な時間と労力を要する上、購入した全ての底地を現金化できるわけではない。当然ながらバルクセールでの価格は低くならざるを得ず、通常は高くても時価の1割程度と言われる。

※但し、本稿では底地を1件だけ購入するようなケースは除外しています

ここで留意すべきことは、底地の売却にあたっては地主の債権債務が全て買主に引継がれることである。底地権者が変わっても、それまでの賃貸関係から生じた債権債務はリセットされない。借地権者としての地位は保たれるが、仮に地主に対して「潜在的な債務」を負っている場合には、これもやはり底地の買主に引継がれるのである。

底地買取業のビジネスモデル

底地を買取った業者は当然資金化を図ることになる。実現性の高い順に並べると、その方法は次の4つである。

 1. 個々の借地人に底地を買取ってもらう
 2. 借地人と共同して、土地を所有権として売却する
 3. 等価交換(モドキ?)により、一部所有権として売却する
 4. 借地権を買取って所有権として売却する

2と4については、共同売却の方が一般的であるので借地権買取のケースは少ないようだ。あるとすれば借地権を安く購入できる場合に限られるだろう。また3番目を「等価交換(モドキ?)」としたのは、正式な再開発事業認定を受けたケースを除けば、業者が販売目的で購入した資産は交換の対象外となるからである。(詳しくは片割れ交換を参照)

これらの方法を見ると、全て借地権者の協力を必要としていることがわかる。1のケースでは「お客様」である。この点が「地上げ」が、金銭的補償はするにしても、基本的には地権者の排除を目的としているのとは根本的に異なる。

また、底地の買取は、バルクセールで購入した以上、「処理の歩留まりを上げないと利益が出ない」という宿命がある。私の知るこの業界のベテランは、「最初の1/3で資金回収、次の1/3が利益と人件費、残りの1/3は後のお楽しみ」というような意味のことを言っていた。目先の1件2件で暴利を貪ることができたとしても、全体の処理率があがらなければ何にもならない。悪評がたって他の借地人に警戒されてしまうことは避けねばならないのである。

以上より、賢い業者であれば借地人と無用なトラブルは起こさないように努める。まず毎月の地代をいちいち訪問集金することにより借地人との人間関係を作り、一つずつ処理実績を積み重ねることにより借地人たちの信用を得ることを目指すのが定石である。個々の貸地が20~30坪程度の小規模な区画であると、底地の買取費用も高が知れているため、意外と借地人が買取ってくれるケースが多い。勿論、個々の交渉では借地人と利害が衝突することはあろうが、これは仮に元の地主と交渉したとしても生じる種類のものである。

しかしながら、上でも触れたように、昨今は「勘違い」した業者が借地人と無用なトラブルを引き起こしていることも事実である。そこで次回は借地人との問題をもう少し詳しく述べることにしよう。