0.不動産業界

底地の買取業者について(その2)

借地人との力関係

個人地主から底地買取業者へ所有者が変わったとしても、借地権者と底地権者の法律上の関係が変化するわけではない。「借地・底地の権利調整」で論じたように、両者にはそれぞれ強味と弱味を持っている。底地買取業者は地上げ業者に比べれば「紳士的」だと述べたが、これは程度の差であって、借地人に弱味があれば突いてくるのは当然である。要は、それが正当なものなのか、という問題である。

「地主から全ての債権債務を承継する」とは?

少数ではあるが借地人の中には地主と喧嘩することが趣味のような人もいる。地代の値上げには全く応じず、更新料など当然のように払わない。このような相手は地主にとっては悩みの種であり、底地をただ同然で売り払う気にさせた元凶となっているケースが多い。ところが、底地買取業者にとっては意外に与しやすい場合もある。

現在の日本の法律では、地主が借地人を立ち退かせる「正当事由」というものは実質的に存在しない。賃料水準について借地人と争っても労多くして益は少ないし、更新料などは「慣習」にしか過ぎず正式な権利でさえない。つまり借地人が既存の建物で現況の利用を続ける限り、借地人は地主より圧倒的に有利な立場にいると言える。

ところが、このような「地主と争う」タイプの借地人も、ひとたび家屋の建替えや借地権売却を行おうとすると一転して立場は弱くなる。地主がそれを拒否すれば裁判(又は調停)となるが、この際に過去に相場を無視して「踏み倒した」賃料や更新料が承諾料に反映されるのである。つまり地主と争うことにより得た経済的利益は、借地人にとって一種の「隠れ債務」となっているのである。

業者は地主から全ての債権債務を承継することとなる。故に、この「隠れ債務」も当然引継がれることとなる。仮にその底地がただ同然で売買されたとしても関係ない。このため、ひとたび建替え等が懸案となれば、業者は「地主と争う」タイプの借地人に対しては強い立場をとることができる。一方、過去に地主と何らトラブルが無かった借地人は、過去に地主と合意の上で取り交わした約束事は全て保護される。突然見ず知らずの不動産業者が地主となったからといって、何ら恐れる必要は無いのである。

突然、底地を買われてしまったら・・・

基本的には慌てないことである。名義人が変わっても、旧地主との間で交わされた合意や取決めは反故にされることは無い。「底地買取業のビジネスモデル」の所で述べたように、借地人は業者にとって一番手の「お客様」なのだから堂々としているのが正しい。後日なんらかの提案がある筈で、それが魅力的であれば応じれば良いし、嫌ならそのまま借地していれば良いだけの話である。早くして欲しいとの申し出があろうが、それは業者の都合であって、それに見合った条件面での譲歩等がなければ借地人としては急ぐ必要は無い。

一方、相手が業者だからといって交渉自体を忌避する人がいるが、これは大間違いである。変な人間関係が絡まない分、かえってスムーズに交渉できるケースも多い。また、業者が二束三文で底地を取得したことを知って怒る人もいるが、前述のバルクセールの仕組みから見てやむを得ない面もあり、この際は相手の懐具合など気にせず自分の損得勘定のみを冷静に判断するのが正しい対応といえよう。

ここで問題になるとすれば、何故だか自分の立場が強いと錯覚している「勘違い」業者に当ってしまった場合である。前述の通り、「隠れ債務」のある借地人に対しては業者は存外強い立場にあるが、「大人しい」借地人に対しては逆に弱い立場のはずである。ところが一部の業者は、「トラブルメーカーの借地人でも言うことを聞かせられたのだがら、大人しい借地人など簡単に牛耳れるはずだ」と勘違いしてしまうらしい。ほとんど「妄想」に近いのだが、こういう業者は「すぐ買え、高く買え」と変に確信をもって催促してくるので始末に悪い。

このような場合は、仕方ないので建替え等は我慢することにして、当分は今まで通り地代を払いながら様子を見るしかなかろう。向こうが間違いに気づいて態度を改めるまでは、交渉しても話は噛み合いそうも無いからだ。言うことを聞かないと法外な地代の引上げや莫大な更新料でも請求されるのではないかと心配される向きもあろうが、そんなものは断固として拒否してしまえば良いのである。拒否しても相手には打つ手など無いし(注)、また相手が打つ手など無いことに気づいてこそ、初めて交渉の素地が整ったと言える。無用な喧嘩は避けて相手が音を上げるまで待つ、これが肝要である。

(注)訴訟を起こされたとしても、周辺相場以上の賃料や更新料を課されることはありません。また、底地であることを承知で購入していますので、業者が皮算用した「得べかりし利益」などは損害賠償の対象になりません。

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底地の買取業者について(その1)

はじめに

不動産業界には「底地の買取業」というジャンルがある。昔のバブル時代には大層流行した業態で、「××興産」とか「○○○土地」等という実質的に「地上げ屋」同然の大手業者も存在した。バブルが弾けてこれらの業者は消えていき、比較的地道に権利調整を行う業者だけが残った。しかし、数年前までの市況回復期には新たに参入してくる会社もあったようである。

底地の買取というと強面の「地上げ屋」を連想する人が多いかもしれないが、実態はもっと地味な仕事である。借地・底地の権利調整 の所で説明したが、借地権と底地権は本来一つであったものが引き裂かれて(?)出来たことから、互いに「不完全な権利」ある。借地人と地主が協力すれば大きなメリットが生じるが、長年の人間関係のもつれ(?)から当事者間で解決できなくなっているケースも多い。これを第三者的に権利調整することにより、業者と借地権者の双方に利益となる解決策を見出せれば社会的効用は大きい。その意味では、社会的には余り評価されてはいないかもしれないが、高い専門性を必要とする重要な業務ということもできよう。

しかしながら、利益が上がると聞くと訳も分からずに参入してくる業者がいることも事実であり、そのような業者がトラブルを起こしている話を最近よく耳にするようになった。まあ底地の買取業とは一種のトラブル産業であるから仕方がないと言えばそれまでだが、当事者の無知や誤解でトラブルになっているケースが増えているようである。そこでこの業態について簡単に説明してみることにしよう。

地主による"底地のバルクセール"

地主にとって底地はやっかいな資産である。相続税評価は高いが、地代による収益性は低く、かといって物納に利用することも難しい。いつの日か高い金額で資金化できるかもしれないが、それとて借地人の都合次第である。近い将来に相続の発生が予想されるような局面では、感覚的には殆ど「負の資産」といっても過言ではない。この際一気にオフバランスしてしまいたいと地主が考えるのも無理ならぬことである。

そこで考えられたのが、底地権の一括処分である。これは一種の「バルクセール」といえる。土地ごとに借地人との関係、地代の高低、更新到来時期等は異なるが、これらを勘案することなく一括して売却してしまうのである。買取った側は借地人との交渉を通じて底地の現金化を目指すわけだが、これには膨大な時間と労力を要する上、購入した全ての底地を現金化できるわけではない。当然ながらバルクセールでの価格は低くならざるを得ず、通常は高くても時価の1割程度と言われる。

※但し、本稿では底地を1件だけ購入するようなケースは除外しています

ここで留意すべきことは、底地の売却にあたっては地主の債権債務が全て買主に引継がれることである。底地権者が変わっても、それまでの賃貸関係から生じた債権債務はリセットされない。借地権者としての地位は保たれるが、仮に地主に対して「潜在的な債務」を負っている場合には、これもやはり底地の買主に引継がれるのである。

底地買取業のビジネスモデル

底地を買取った業者は当然資金化を図ることになる。実現性の高い順に並べると、その方法は次の4つである。

 1. 個々の借地人に底地を買取ってもらう
 2. 借地人と共同して、土地を所有権として売却する
 3. 等価交換(モドキ?)により、一部所有権として売却する
 4. 借地権を買取って所有権として売却する

2と4については、共同売却の方が一般的であるので借地権買取のケースは少ないようだ。あるとすれば借地権を安く購入できる場合に限られるだろう。また3番目を「等価交換(モドキ?)」としたのは、正式な再開発事業認定を受けたケースを除けば、業者が販売目的で購入した資産は交換の対象外となるからである。(詳しくは片割れ交換を参照)

これらの方法を見ると、全て借地権者の協力を必要としていることがわかる。1のケースでは「お客様」である。この点が「地上げ」が、金銭的補償はするにしても、基本的には地権者の排除を目的としているのとは根本的に異なる。

また、底地の買取は、バルクセールで購入した以上、「処理の歩留まりを上げないと利益が出ない」という宿命がある。私の知るこの業界のベテランは、「最初の1/3で資金回収、次の1/3が利益と人件費、残りの1/3は後のお楽しみ」というような意味のことを言っていた。目先の1件2件で暴利を貪ることができたとしても、全体の処理率があがらなければ何にもならない。悪評がたって他の借地人に警戒されてしまうことは避けねばならないのである。

以上より、賢い業者であれば借地人と無用なトラブルは起こさないように努める。まず毎月の地代をいちいち訪問集金することにより借地人との人間関係を作り、一つずつ処理実績を積み重ねることにより借地人たちの信用を得ることを目指すのが定石である。個々の貸地が20~30坪程度の小規模な区画であると、底地の買取費用も高が知れているため、意外と借地人が買取ってくれるケースが多い。勿論、個々の交渉では借地人と利害が衝突することはあろうが、これは仮に元の地主と交渉したとしても生じる種類のものである。

しかしながら、上でも触れたように、昨今は「勘違い」した業者が借地人と無用なトラブルを引き起こしていることも事実である。そこで次回は借地人との問題をもう少し詳しく述べることにしよう。

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DCF法についての誤解(その2)

DCF法が注目された背景
不動産鑑定の世界では、収益不動産の価格評価について「取引事例比較法」と「収益還元法」という2つの手法が競合してきた。バブル期までの地価上昇期においては取引事例比較法が優勢であったが、バブル崩壊で地価が大幅に下落したことにより取引事例比較法への信頼は失墜し、収益還元法が優勢となった。同時期に不動産流動化ブームが到来し、それに伴い収益還元法のより新しい手法(?)としてDCF法が注目されることとなった。その後のミニバブル的状況においてREITや投資ファンドが市場の主役となったことにより、彼らが実際に使用しているDCF法が鑑定の世界でも主流になった。しかし、今回の金融危機による地価下落でDCF法に対する信頼も揺らいでいるのが現状である。

収益還元法との混同
ここで注意すべきことは、収益還元法=DCF法 という関係は誤解だということだ。確かに数式は似たようなものかもしれないが、意味合いは全く異なっている。元々、DCF法は将来予想の変化により現実価格が敏感に変動することの説明に用いられてきたものである。DCF法は将来の予想価格がNPVに反映されるため、計算期間が短期であれば将来の予想価格から大きな影響を受けざるを得ない。バブル崩壊後の地価低迷時においては、価格水準が十分に下落したことにより相対的に賃料による収益率が上昇し、かつキャピタルゲインが全く見込めない状況であったため、結果的に収益還元法とDCF法の結論がほぼ一致したということにすぎない。このことは、その後の地価反騰局面で収益還元法の適用が困難となると、価格上昇トレンドを織り込めるDCF法が好んで用いられるようになったことを見ても明らかである。

妥当性の根拠とは
要するに、DCF法とは将来予想と割引率の設定によりどんな結論でも引き出せてしまう手法なのである。価格形成プロセスを説明するのに使用するには全く問題はないが、「適正な」価格を計算しようとすれば「的確な」収入予測と「適正かつ合理的な」割引率というものが存在しないと成り立たない。もし市場価格に合わせて予想や割引率を恣意的に調整するようなことがあれば、それは単なる数字遊びと言わざるを得ない。

本家アメリカでも疑問視?
アメリカでREITが誕生した当初、REIT価格は株式等とは異なり安定的だとする説があったらしい。もしそうであれば、REIT価格と配当率を参考にして「的確な」収入予測と「適正かつ合理的な」割引率を推定することが可能だったかもしれない。しかしアメリカにおいて既にREIT価格の暴落が幾度か発生したことにより、この仮説は誤っていたことが証明されてしまった。

市場参加者を見れば・・・
投資ファンドによるミニバブルが発生した当時、高値で物件を購入しようとしていた担当者(友人?)に価格の根拠を聞いたことがある。その答えは「賃料相場が上昇し、市場のCapRateも更に低下するはずだ。そうすれば大きなキャピタルゲインが見込めるため、高い水準の期待IRRを達成できる」というものであった。ちょっと聞くと尤もらしいような気もするが、地価高騰を期待した思惑買い以外のなにものでもない。こういう参加者が市場価格を形成しているのである。それを鑑定評価できるもっともらしい「的確な」収入予測と「適正かつ合理的な」割引率などあるのだろうか。表現が適切でないかもしれないが、女子高生向けの売れ筋商品を中年男の学者が論評しているようなものである。後から尤もらしい理屈は付けられるかもしれないが、いざというときに当る保証は何処にもない・・・。

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DCF法についての誤解(その1)

単なる計算手法
DCF法とは、将来のキャッシュフローを現在のキャッシュ(NPV)に換算することに過ぎない。一見すると難しそうな計算式も、単にこれを定式化しただけのことである。DCF法とは単なる計算手法の名称であって、それ以上でも、それ以下でもない。巷間で「DCF法の有効性」に関して議論があるが、これは正しくは「DCF法の使い方の有効性」についての議論と言うべきであろう。

投資家にとってのDCF法
まず投資家が投資判断に用いるケースを見てみよう。プロの投資家であればIRRを意識するのは当然であり、IRRを管理する手法こそDCF法に他ならない。私の知っている米系投資銀行は、投資判断に際しては(出口戦略を含めた)デューデリジェンスに基づいて求められたNPVを参考にし、購入後は実際の購入価格から彼らの期待IRRを達成するのに必要な売却価格・スケジュールを再計算して業務管理に利用する、という方法を取っていた。これはDCF法を実務に応用した典型的なケースである。

経済理論としてのDCF法
次に投資家の行動を論理的に説明するためにDCF法を用いるケースがある。経済学の世界では投資行動を理論的に定式化する手段としてずっと以前からDCF法を使用してきた。まず経済学におけるDCF法のこのような使用法が先にあり、後になって投資家がこれを実務に応用するようになったと言えよう。(但し、経済理論ではDCF法で具体的な価格を算出することは有り得ない)

不動産鑑定におけるDCF法
これに対して、DCF法を「適正な不動産価格」を算出(=鑑定評価)するために用いるケースがある。これは前の2つのケースのような投資計画の「立案手段」とか「行動仮説」といったものではなく、DCF法で市場価格を推定してしまおうという大胆な試みである。この試みが意味を持つためには、その計算を正当化するに足る「的確な」収入予測と「適正かつ合理的な」割引率というものが存在することが大前提となるが、もしそんなものが存在しない場合は意味をなさない。

鑑定が問題?
DCF法の有効性について議論の余地があるとすれば3番目の使用法であろう。前の2つが正しいから3番目も正しいというのは誤解であり、反対に3番目が信用できないからDCF法自体を否定するというのも誤解である。そこで次回はこの3番目の使用法について詳しく見ていこうと思う。(その2に続く)

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新興不動産会社が簡単に破綻する理由

破綻の連鎖
近年上場した不動産の流動化や証券化を謳い文句にする新興不動産会社の多くが危機的状況に陥っている。地価の上昇基調が下落基調に転じるや否や、業績不振は仕方ないとしても破綻の危機というのは酷すぎる。これではバブル崩壊で破綻した旧来型の”転売屋的”不動産会社と同じである。

バブル崩壊の学習効果なし
しかしながら、バブル崩壊を経験した新興不動産会社の経営者が市況の悪化に対して全くの無防備だったのは何故であろうか。サブプライムローン問題の発生は予期できなかったかもしれないが、何かの理由で市況が悪化する可能性は常に存在する。現在の新興不動産会社の惨状を見ると、短期的な業績だけを追求して市況悪化リスクは敢えて無視(若しくは考えないように)していたとしか思えない。

株式公開の功罪
これは新興不動産会社が新規上場企業であったことに起因すると考える。新規上場企業の経営者の最大の目標は会社の時価総額を上げることである。ライブドアに代表されるように、これを増資やM&A、さらには株式分割等を活用して最短の期間で達成することが理想である。会社の安定性や永続性はこれが達成された後の課題にすぎない。

リスクに目を瞑る?
このような新興企業は短期的な業績を猛烈に追求することになる。市況が悪化すれば業績を上げることは困難となるため、市況が良い間に大きな利益を上げなくてはならない。当然のことながら大きな利益には大きなリスクが伴うわけだが、リスクを恐れていては何も始まらない。それ故、将来市況が悪化するかもしれないと考えると、逆に目先のリスクを増加させるという矛盾した行動にでてしまう。その結果、実際に市況が悪化に転じた時には、既に制御できないほどのリスクを抱え込んでいたというのが現在の状況だろう。

ベンチャーの宿命
これが新興不動産会社に対してバブル崩壊の学習効果が全く働かなかった原因である。少し極端な論理と思われるかもしれないが、このような行動原理はベンチャー企業の経営者なら多かれ少なかれ必ず持っているものであり、ある意味正しい考え方だといえる。現在危機に陥っている新興不動産会社も金融危機さえ起こらなければ大成功を収めていたかもしれず、また、業績が好調なうちに創業者利益を手にした経営者は立派な「勝ち組」だと言うこともできるからだ。

銀行も同罪
それとともに銀行の融資姿勢についても問題があったと言わざるを得ない。不良債権処理であれほど苦労したにも拘らず、今回も 過剰融資→急激な締付け→不良債権化 という同じ轍を踏んでしまった。SPC、受益証券化、ノンリコースローンの導入等によって債権回収作業自体は楽になったかもしれないが、そういう問題ではないだろう。

破綻する理由
つまり市況悪化リスクに敢えて目を瞑っていた企業と、いざとなった際の逃げ方くらいしか考えていなかった銀行が今回のミニバブルの主役だったわけである。そこにお手本としていた米系投資銀行さえ破綻するような衝撃が襲ったわけであるから、これでは簡単に破綻してもやむを得ないのである。

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