5.相続税増税

相続税増税(11)  2次相続 小規模宅地特例不適用

2次相続で小規模宅地の特例が適用できないケースである。このケースに関しては新税制は厳しいものとなっており、「薄く広く」というような心遣い(?)はされていない。

早見表-8 (クリックして拡大)

2nd0

早見表4と比べると、基礎控除が600万円少ない、配偶者控除がない、の2点で税負担が大きくなっている。ここまでは新税制で新たに課税される「普通の戸建所有者」は主に首都圏や大都市圏に限られていたが、本ケースではほぼ全国主要都市の戸建所有者の多くに該当することとなる。

因みに旧税制において土地面積が200㎡以内であれば50%が減額され下表のようになっていた。

早見表-9 (クリックして拡大)

A2nd50

実は平成22年から始まっているのだが、この小規模宅地特例の適用外となるケースが最も増税幅が大きい。一人になった親と同居もせず、自己または配偶者所有の不動産に住んでいるような子供には配慮する必要はないということなのだろう。
しかしながら、1次相続→2次相続 というパターンとは限らないのではないだろうか。夫人に先立たれると後を追うように夫も亡くなるというのもよく聞く話ではある。その場合、同居の意思はあっても時間的に間に合わずに(2次)相続を迎えてしまうということも有りえる訳だが、そのような人には厳しい税制である。

勿論、全ての人に優しい税制など有りえない。どのような税制であっても同情すべきケースもあれば、抜け道と言える様なケースも出てくるものである。今回の税制改正については全般的に小規模宅地特例の適用条件が厳しくなっているが、2次相続における「過去3年以内に相続人またはその配偶者の持家に居住したことがない」というケースは対しては存外甘いような気がしないでもない。例えば、「賃貸不動産に投資しても社宅や官舎に住んでれば相続税も節税できます」などというような勧誘をする業者も出てくるかもしれない。この手の話は大抵は失敗に終わるのだが、予想外に重い相続税が課されるケースが多くなれば案外流行ってしまうかもしれないのが恐ろしい・・・

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相続税増税(10)  2次相続 小規模宅地特例 ▲80%

2次相続、もしくは配偶者(一般的には妻)が先に亡くなっている場合で同居親族(子)、もしくは同居親族がいない前提で相続開始3年以内に本人または配偶者所有の不動産に居住したことのない相続人が被相続人居宅を相続したケースである。

早見表-6 (クリックして拡大)

2nd80

この例では特例対象の子が土地全体を相続すると想定している。この場合、旧税制では課税される方が稀だったが、新税制でも薄く広く」程度の課税となっている。
一方、特例対象の子と対象外の子が各1/2を共同相続する場合は、配偶者と非同居の子が共同相続する場合と同じく特例による軽減率は40%となる。

早見表-7 (クリックして拡大)

2nd60

平成21年までは一部でも対象となれば全体が特例対象となったが、平成22年からは相続人ごとに計算されることとなった。相続財産の評価額が対象、非対象外で異なるため、税負担は主に対象外の子の負担となることを遺産分割の際には留意する必要があろう。
従来、どうせ実質非課税ということで相続登記を後回しにしたり、金融機関に個別に届出をして適当に預貯金等を配分するケースが多かったと思うが、今後は税負担の問題が加わる上に申告のタイムリミットがもあるため手続き全般を急ぐ必要がでてくる。従来から課税対象だった資産家はそれなりの準備や心構えもあると思うが、今回新たに課税対象となる人には大変だろう。そもそも新たに課税対象となることすら知らない人の方が多いのだから・・・・

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相続税増税(9)  1次相続 小規模宅地特例なし

実際には1次相続ではありえない仮定であるが、申告義務が発生するかを確認するための資料として示したものである。

早見表-4 (クリックして拡大)

1st0

これを見ると、首都圏で1戸建てを所有している場合はかなりの確率で申告対象となると思われる。特に23区内では30坪程度の建売住宅でも厳密には申告が必要となりそうである。

参考に旧税制で申告義務が発生するのは下表を参照。

早見表-5 (クリックして拡大)

A1st0

基礎控除が大きかった分、旧税制の方が余裕がある。加えて、旧税制では早見表-2となるのがほぼ間違いなかったことから、税務当局も「相続についてのお尋ね」に回答すれば実質的に申告を免除するケースが多かった。これに対し、新税制では遺産分割によって課税額が大幅に変化するため、従来のような実質的申告免除が認められるかは大いに疑問である。まあ最終的には税務署のキャパシティや「徴税目標」との兼ね合いとなるのかもしれないが・・・


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相続税増税(8)  1次相続 小規模宅地特例 ▲80%

適用条件)土地 同居親族(配偶者or子)が全体を相続
     建物+家財=1000万円

早見表-3 (クリックして拡大)

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その他資産ゼロのケースで土地評価額が2億円で相続人の持ち出しが発生するが、そのようなケースを除けば、その他財産を数千万円所有していたとしても相続税は同財産の概ね10%以内となっている。これなら配偶者に土地処分を強制するほどの負担ではないので、「薄く広い」課税だと言ってもよいのかもしれない。勿論、金融資産を億単位で持っていれば税率も高くなるが、そのような人は以前より課税対象だったわけでここでは考慮しない。

これに対する旧税制での課税額は前回の早見表-2となる。この表と比べれば新税制は明らかな増税となるが、現実には居宅敷地で2億、3億を超えるようなケースは稀であり、それに該当する人を特に優遇する必要もなさそうである。むしろ、税務当局としてはそのような人に課税したいがために税制改正を実施したとも言える。但し、アベノミクスにより万一バブル当時の地価水準になるようなことがあれば評価額2億円超の宅地が急増して社会問題となる可能性もあるが、現時点でそこまで心配する必要もなかろう。

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相続税増税(7)  1次相続 小規模宅地特例 ▲40%

適用条件)土地 配偶者が1/2 子(別居)が1/2 を相続
     建物+家財=1000万円

特例適用)配偶者持分50% × 80% = ▲40%

※当初、2世帯住宅でもこのパターンに該当する可能性が高いと書いたが、財務省のパンフレットによれば2世帯住宅は同居扱いとなるらしい

これが最も一般的なケースと思われる。これに基づいて納税後に土地・建物を除くその他資産(現預金等)が幾ら残るのかを計算したのが下の表である。

早見表-1 (クリックして拡大)

1st40_2 

色が付いているところは課税対象。納税額が現預金の50%以下となるのが青、現預金の範囲内ではあるが50%超となるのが黄色、現預金では足りず相続人の持出しとなるのが赤とする。現行税制と比べると課税対象は大幅に拡大しているが、1次相続で配偶者が自宅1/2と老後資金を相続する場合、土地評価額が1億円以内くらいであれば税負担は比較的軽いと言える。老後の生活を圧迫しない程度の課税という意味では「薄く広く」ということになろう。但し、納税額が小さかろうが申告手続きの煩雑さは同じであり、納税額より税理士報酬の方が高いといったケースも出てくるかもしれない。

※配偶者控除については小規模宅地特例が適用されると単純に1/2とはできない。本表では 配偶者の同特例適用後の土地評価額と現預金等の合計(A)が相続財産総額(B)の1/2以下の場合は、相続税総額×A/Bを配偶者控除とした。


早見表-2 (クリックして拡大)

A1st80

参考までに平成21年までの表を見てみよう。当時は配偶者が一部でも相続すれば全体が特例適用対象とされたので、余程の豪邸や大金を持っていない限りは殆ど非課税だったと言える。非課税なら配偶者をとばして子に相続させることが可能となり、税務当局が言う「課税回避」的な遺産分割を行うケースが増えたのもある意味自然なことであったと思われる。

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相続税増税(6)  今回の改正は「薄く広く」ではあるが・・・

バブル期に小規模宅特例が拡充された理由

当時相続税が問題視されたのは、都内の普通の戸建住宅に住んでいた家庭で夫が死亡した場合などで相続税負担が過大で土地を売却せざるを得ず妻が住みなれた家に住み続けることができないケースが多発したことである。配偶者控除を利用してなんとか現金等で納税できたとしても肝心な老後資金を失ってしまうわけで、これでは老後の生活設計も立てられない。
また同居して親の面倒を見てきたり、或いは家業を継いで生計を助けてきた子供が土地を手放さざるをえないケースも多発した。それでも当時は土地が高く売れたから良かったのではないかと思う人もあろうが、同様に買い換える物件も高額で税金や様々なコストも勘案すると殆どメリットのないケースも多かったのである。

結果として過度の相続税負担は換金意思のない相続人にも売却を強制する効果を持ってしまったわけである。これが地域コミュニィティや商店街の破壊をもたらしたことが社会的批判を呼び、基礎控除の引き上げと小規模宅地特例の拡充へとつながっていったものと思われる。

「薄く広く」というには難解すぎる制度

これに対し今回の相続税改正案は①相続税を課す範囲を大幅に拡げるが、②相続税負担により配偶者が自宅売却に追い込まれることは出来るだけ避け、更に、③子が同居、もしくは家業を継いでいる場合は従来通り(場合によってはそれ以上)の優遇措置を維持する、ということを目指したなんとも欲張りなものである。平成22年の小規模宅地特例の見直しはそれに沿ったものであり、上記のような社会的批判を招かないように「薄く広く」課税する制度と言えなくもない。

しかしながら「薄く広く」というなら本来はシンプルで分かりやすい制度にすべきだと思うのだが実際はそうなっていない。相続財産が同じ位であっても、家族構成や居住形態が異なれば大きな差が生じる。特に厄介なのは遺産分割のやり方次第で課税されたり、非課税となったりすることである。今まで相続税の申告や納税と縁のなかった多くの人たちにとって、自分が課税対象や申告対象に該当するかを見極めることは困難だろう。今後アベノミクスで地価が上昇に転じれば首都圏の申告対象者がどけだけ増加するかは見当もつかない。平成27年の施行開始までに新税制の内容を広く浸透させることが必要である。

そこで、試みにどの程度の資産を所有していると課税対象となるかを判別するための早見表を作成してみることしよう。従来から相続税の課税対象だった人には不要だと思われるので、ここでは都市部の戸建住宅所有者で初めて相続税が課税されることになった人を対象とする。この場合の相続財産は一般的に

  土地+建物+金融資産等(その他資産)

となろう。バブル当時の経験から言うと、相談に来る人が最初に知りたがるのは ①課税されるのか、②預金等で納税できるか、③それを超えて持ち出しとなってしまうか、の3つであった。次回よりこの考え方に沿った早見表を用いて説明していくことにしよう。

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相続税増税(5)  小規模宅地特例の問題点

平成22年度税制改正により、1つの宅地等に共同相続があった場合は取得した者ごとに小規模宅地特例の適否を判定されることとなった。特例適用対象者が1%でも取得すれば残り99%も特例対象となってしまうことが「課税回避的行動」を助長するというのが改正の主な動機だったようである。この際「ゼロベースで見直して分かりやすい制度とする」という説明があったように思うが、いざ運用を始めて様々なケースに当てはめてみると税務関係の人間でさえ戸惑うような難解な制度だったというのは皮肉としか言いようがない。

今回の「特定居住用宅地の特例適用面積を330㎡に拡充」というのも同類の「改正」ではないかと思っている。推進している人は「善意からの行動」なのだろうが、実際に運用するとなると本当に「改正」なのか疑わしい。

A.単純なケース

S330

このグラフは横軸を被相続人居宅の面積として小規模宅地特例適用後の評価額の変化パターンを表している。赤の破線は平成22年以前のパターンを示し、現行税制でも全体が特例対象となるケース(=居宅を配偶者や同居親族が全て相続するケース)でも同様となる。
特例適用面積を330㎡に拡充しようとしている人たちはこれをイメージしているのだろう。これなら240㎡超のケースについて評価が軽減されるだけで、240㎡未満の人には関係ない。元々240㎡というのが都内を想定した面積で地方の住宅事情を考慮すれば若干手狭だったとも言えるので、基礎控除引き下げを機に見直して欲しいとの要望がでても不思議ではない。

B.共同相続(現行税制)

S240

配偶者と子(特例対象外)が法定相続割合で共同相続するケースである。この場合、特例対象となるのは配偶者が相続した部分のみとなる。

特例対象面積=土地面積×配偶者相続割合(1/2)

これに基づき作成したのが上のグラフである。上限面積は240㎡のままでも計算方法の変更で実質的に評価額が増大する。平成22年以前(赤の破線)と比較すると240㎡で差が最大となり、480㎡で重なっている。これは居宅敷地面積が480㎡未満の人は実質増税、その中でも特に240㎡に近い人への増税幅(?)が大きくなるが、480㎡以上の人は影響を受けないということを意味している。普通に考えれば一部の人にのみしわ寄せがきているように思えるが、これが「ゼロベースで見直した分かりやすい制度」であるらしい。まあゼロベースで見直したのだから過去と比較する気など無いのかもしれないが・・・

C.共同相続(適用面積330㎡に拡充)

Sk330

同条件で共同相続するとして適用面積上限を330㎡とすると上のグラフとなる。このグラフの意味を端的に言えば「居宅敷地が480㎡未満の人は実質増税、480㎡以上の人は実質減税」ということである。現行税制においては「ゼロベースで見直した」と強弁することも可能かもしれないが、このように適用面積拡充を含めると「公平な制度」とはとても言えないだろう。

以上は法定相続割合による共同相続を前提とした議論であり、配偶者が単独相続すればこのような不公平は発生しないとの指摘があるかもしれない。しかし、相続財産の主たるものが被相続人の居宅だけといったケースの方が裁量的に遺産分割できない可能性が高いと思われる。そもそも租税回避のため恣意的に遺産分割を行うことを防ぐのが趣旨だったはずで、「法定相続割合」で遺産分割を行おうとする人がペナルティを課され、新制度に合わせて裁量的に遺産分割した人だけが恩恵を得るというのは納得しがたい。

平成22年度税制改正は小規模宅地特例を「ゼロベースで見直した分かりやすい制度」にすることを目指したのかもしれないが、私には真逆の方向に進んでいるような気がしてならない。今回の税制改正大綱にいたっては条文さえ理解困難なものとなってしまった。制度を作っている人すら制度を良く知らないのではと疑いたくなるような状態である。本来は平成22年改正後に制度についてもっとオープンな議論をすべきだったのである。ところが実際は、税務当局は本格的な相続税増税を前にして「寝た子を起こすな」的思惑から現行税制の問題点について議論を避けてきたのではないだろうか。願わくば、今後はよりオープンな議論を行い、本当の意味で「ゼロベースで見直した分かりやすいシンプルな制度」としてもらいたいものである。

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相続税増税(4)  居住用宅地と事業用宅地の「完全併用」?

前回、居住用宅地と事業用宅地の「完全併用」により小規模宅地特例の最大適用面積が730㎡になるとの説について疑問があると述べた。ここでは何故疑問に感じたかの理由について具体例を用いて述べることとしよう。

土地の相続人は配偶者(事業継承せず)と子(事業継承者、別居、生計は別)の2人とする。
現行の小規模宅地特例の計算方法を用い、小規模宅地特例が「完全併用」により最大730㎡まで適用可能とする。

ケースA

併用住宅(自宅兼店舗) 200㎡
路線価 600千円/㎡ 評価額 120百万円

Heiyo

この場合、配偶者と子で1/2共有で相続すると特例対象は赤枠内のAとDのみ。
評価額は、120百万-(120百万×50%×80%)=72百万 

ケースB

店舗400㎡ → 路線価600千円/㎡ 評価額240百万円
居宅330㎡ → 路線価303千円/㎡ 評価額100百万円
店舗を子、居宅を配偶者が相続。よって全体が特例対象となる。

評価額は、(240百万+100百万)×20%=68百万 

このように単純に「完全併用」を認めるとケースAの方がケースBより評価額が高くなってしまう。常識的に考えてこれはオカシイだろう。「小規模宅地」の名が泣くというものだ。

ここでもう一度税制改正大綱の文を見てみよう。

② 特例の対象として選択する宅地等の全てが特定事業用等宅地等及び特定居住用宅地等である場合には、それぞれの適用対象面積まで適用可能とする。なお、貸付事業用宅地等を選択する場合における適用対象面積の計算については、現行どおり、調整を行うこととする。

実は2世帯住宅の計算についても上の例と同様な矛盾が生じるケースがあったが、この条文に続く③はそれを解消するものである(→前回の本ブログ参照)。その文脈で②を解釈すると、②は上図のBとCの部分を特例対象とするための条文である方が自然ではないだろうか。これなら少なくとも上のような評価額の逆転現象は回避されることになる。

報道によれば、税制改正大綱の取りまとめにおいて「完全併用」の導入を強く推す声があったようであるが、この「完全併用」というのは確かに取って付けた感が否めない。少なくとも平成22年の小規模宅地特例の計算方法の変更と整合性がないのは明らかであり、ひょっとすると税制改正大綱の文章が「意味不明」になってしまったのもこれが原因かもしれない。

平成22年改正による小規模宅地特例の計算方法の変更は特例の適用条件を厳しくして実質的に相続財産の評価額を引き上げることを目的としていた。それに今回の基礎控除引き下げを加わえることで課税対象者を増やすというのが税務当局の筋書きであった筈である。しかし今回の特例の面積制限緩和は明らかにこの流れに矛盾しており、比較的不動産を多く所有している「中」以上の資産家にとっては特例による控除額の上乗せが基礎控除額の減少を上回って実質減税となる可能性すら生じてしまう。

以上のような問題を考慮すると、今回の税制改正大綱は十分な検討を経て作られたものではないのではないか、という疑念を持たざるを得ない。今後、「完全併用」について税務当局がどのような具体的取扱をするのか注視する必要があろう。

(追記)前の記事の追記でも書いたが、今回の小規模宅地特例の改正については財務省は妙に「柔軟」である。2世帯住宅に対する気前のよさを見ると、特定事業用部分を含む併用住宅についても「柔軟」な扱いとなり、この記事のような面倒な心配は不要となる可能性もありそうな・・・・

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相続税増税(3)  小規模宅地特例について

平成22年の小規模宅地の特例の改正は、特例の適用条件を厳しくすることによって実質的な相続税増税を図ったものである。税務当局としては「計算方法の厳格化により1次相続時に課税回避的な遺産分割を行うのを防ぐ」と言うのが大義名分だったように思うが、その結果として計算方法が複雑になり過ぎて別の問題が生じてしまったことは以前指摘した通りである。

    速算相続税2011 ~その2  を参照

現状はまだ基礎控除が高く設定されているのであまり社会問題化していないが、平成22年から相続税の申告漏れが急増しているのは本件も関係しているのではと推察される。このまま基礎控除が減額されれば大変なことになるのではと懸念していたところ、さすがに今回の税制改正大綱には幾つかの修正点が盛り込まれている。但し、これがなんとも分かりにくい表現なので、以下で私なりの解釈を加えてみようと思う。

小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例についての見直し

① 特定居住用宅地等に係る特例の適用対象面積を330 ㎡(現行 240 ㎡)までの部分に拡充する。

相続税の負担軽減措置には違いないのだか、正直なところ私には少し違和感がある。例えば、200㎡の自宅土地を配偶者と子(別居、生計別)が折半で相続した場合、従来なら全体が特例対象となったものを配偶者の相続する部分のみに限定させられたことで実質増税となったわけである。つまり特例対象面積の枠内であっても部分的にしか適用できないように制度を変えたのに、今度は枠自体を拡充されても使えないのは同じである。この修正でメリットがあるのは自宅敷地が十分に広く、以前から相続税対象となっていたような人であろう。この時期にそのような人だけを優遇する理由が良く分からないのだが・・・

② 特例の対象として選択する宅地等の全てが特定事業用等宅地等及び特定居住用宅地等である場合には、それぞれの適用対象面積まで適用可能とする。なお、貸付事業用宅地等を選択する場合における適用対象面積の計算については、現行どおり、調整を行うこととする。

これは何とも分かりにくい文章で、推測でコメントする他ない。ここだけ読んだ場合、複数の特例対象についての(調整後)制限面積が400㎡から最大730㎡に拡大するのか、それとも制限面積が400㎡の範囲内で特定居住用宅地等についての調整を不要とするのか、そのどちらなのか明確でない。
正直に言うと、私は不覚にも税制改正大綱前文に「居住用宅地と事業用宅地の完全併用を可能とする等の拡充を行う」との記載があったのを読み飛ばしてしまい、上の後者の解釈をしていた。後からネットで見ると、この文言をもって特例面積が最大730㎡に拡大されるとの記事が溢れているので驚いた。偉い先生がそう言うのだから正しいのかもしれないが、正直に言ってそれが事実なら大きな違和感をも持たざるを得ない。その理由は少々長くなるので、次回に具体例を用いて改めて解説することとしよう。

③ 一棟の二世帯住宅で構造上区分のあるものについて、被相続人及びその親族が各独立部分に居住していた場合には、その親族が相続又は遺贈により取得したその敷地の用に供されていた宅地等のうち、被相続人及びその親族が居住していた部分に対応する部分を特例の対象とする。

これは良い修正のようである。速算相続税2011~その2 で指摘したように現行制度では2世帯住宅が不利となっていたのが改善されると思われる。ただ留意すべきは被相続人と2世帯住宅居住の親族が「同居」扱いになったという表現ではないことである。「同居」扱いとならなければ生計が別の「別居」親族は特例の対象外で、本修正内容は配偶者等の「同居」親族が相続する際に2世帯住宅全体の敷地に対して特例の効果が及ぶというこだけである。つまり被相続人の専用住宅のケースと同レベルの扱いになっただけで、2世帯住宅が特に優遇される訳ではない。

(追記)平成25年3月に財務省が発行したパンフレットによれば2世帯住宅は同居扱いとなるそうだ。私の国語力不足かもしれないが、上の条文から読み取ることは無理というものだろう。ただ税制としては分かりやすくなったのは事実である。現行税制に対して大幅な軽減となり、冒頭で示した例と比較すると軽減割合は20%→80%となる。極端な気がしないでもないが、そもそも平成22年改正が非常識だったというべきかもしれない。

なんとも分かりにくい文章となってしまい恐縮だが、現行税制がそうなっているのでご勘弁願うほかない。そもそも平成22年改正による2世帯住宅の小規模宅地特例の計算方法があまりに複雑すぎたのである。たとえ税理論上は合理的な計算方法だったとしても、その計算結果が納税者の常識とかけ離れてしまったのでは本末転倒と言わざるを得ない。
なお、本件については建築会社も苦労したようで「玄関を1つにする」とか「建物内に連結部を設ける」とかで頭を悩ませていたらしいが、この修正により結果的に梯子をはずされた形となって困っている担当者もいるかもしれない・・・・

④ 老人ホームに入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋の敷地の用に供されていた宅地等は、次の要件が満たされる場合に限り、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして特例を適用する。
イ 被相続人に介護が必要なため入所したものであること。
ロ 当該家屋が貸付け等の用途に供されていないこと。

これは非常に良い修正である。介護施設に入所したら住民票を介護施設所在地に移すというのは保険事務の都合であって、これをもって「非居住」として税務上のペナルティを課されていたことの方が間違いなのである。従来は基礎控除に余裕があったので結果オーライのケースが多かったに過ぎない。もう少し詳しく説明すると、1次相続で被相続人が介護施設に入所していて「居住」が認められなくとも配偶者が居住していれば「生計が一つ」の親族の居宅となってOK、1次相続で配偶者の持分を圧縮して基礎控除の範囲内にすれば2次相続でもOK、となって結果オーライのケースが大多数だったのである。今後、基礎控除の引き下げで2次相続でも申告や納税が必要となるケースが多くなれば大きな問題となることは必至であったが、この修正が実現すればかなり解消するに違いない。(付け加えるなら2世帯住宅の「みなし同居」の認定についても非常にプラスとなるはずである)

以上、税制改正大綱に沿って私見を書かせてもらったが実際に施行されるかは不透明である。また細かい解釈についても税務当局に確認したわけではないので間違っている点があった場合はご容赦願いたい。

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相続税増税(2)  「富裕層増税」なのか?

相続税の税率見直しは「大富裕層」に厳しい?

税制改正についての新聞記事を見ると、今回の相続税改正は「富裕層増税」だそうである。

今回、基礎控除の引き下げにより都市部のごく普通の一戸建て所有者にも課税される可能性が高まったが、これを「富裕層増税」というのには抵抗がある人は多いのではないだろうか。(社会全体でみれば言えなくもないが・・・)

これに対し相続税の最高税率の引き上げは明らかな「富裕層増税」のように見える。確かに相続財産6億円超の税率が引き上げられたのだから、マスコミがこれを見て大資産家を対象とした「富裕層増税」と書くのも無理はないのだが、相続税改正の歴史を考慮すると事実はそれほど単純ではない。



相続税制の歴史

相続税の改正が頻繁に実施されるようになったのは昭和62年のバブル期からである。それ以降、昭和63年、平成4年、6年、15年と改正が実施され、その間の改正はすべて税負担の軽減を図るものだったが、今回は増税となる。そこで各税制に基づく相続税負担を比較してみよう。

単純化のために小規模宅地の特例の効果や不動産価格の変動は無視することとする。
1次相続で子が2人と仮定して、基礎控除実施前の相続財産が20億、10億、5億、3億、1億のケースを時系列で比較してみよう。なお、配偶者控除は法定相続割合で受けたものとする。

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このグラフから明らかなように昭和63年以降の相続税改正で最大の恩恵を受けたのは「大」富裕層である。元々それが目的で税制改正を行ったのだから驚く必要はないが、バブル当時に流行した相続税対策が不要となるほどの減税である。今回の改正では増税となるが、これまでの減税規模と比べれば大した増税ではない。

こう書くと、「相続財産が大きければ減税額も大きくなるのは当たり前だ」との反論を受けるかもしれない。そこで比率の推移も見てみることにしよう。ここでは、課税額を基礎控除実施前の相続財産で割ったものを「課税率」とする。

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各相続財産額に応じた課税率は似たようなパターンとなる。ある意味で「平等」と言えるが、税率が引き上げられた「大」富裕層と税率に変化のない「小」富裕層が同じパターンというのはどう解釈すべきだろう。そこで、基礎控除の引き下げのみが行われて税率改正がなかった場合の課税率のグラフを見てみよう。

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これを見ると「小」富裕層ばかり課税強化されている。これは基礎控除の減額が「富裕層」の中では「逆進的」に作用するからである。つまり「大」富裕層の税率引き上げはバランスを取るためのものに過ぎず、「大」富裕層への課税を特に強化したわけではないのである。

平成22年の小規模宅地特例の改正と今回の税制改正は相続税の税収アップを図ったものである。昭和63年以降の相続税軽減の流れを逆転させるわけだが、平成22年の小規模宅地特例の改正内容も勘案すれば「小」富裕層には大幅な揺り戻しであるのに対して「大」富裕層のそれはごく限定的といえる。
マスコミは最高税率引き上げに惑わされて「富裕層増税」と書くが、本来は都市部の戸建住宅所有者を狙い撃ちした「小」富裕層増税というべきであろう。

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